個人事業主と法人の違い|設立手続や税負担、メリット・デメリットを比較
ITツールやクラウドサービスなどが普及したことで、1人でも働く環境を整えやすくなり、仕事を受注するためのコミュニケーションも取りやすくなりました。そこでビジネスを始めるときに「法人を設立するか」それとも「個人事業主として活動するか」、どちらでも選択しやすい社会になっています。
ただ、選択する事業主体によって運営方法や事務的な負担、金銭的な負担も異なりますのでどちらを選んでも同じ、とはなりません。そこで当記事では個人事業主と法人にどのような違いがあるのか、基本的な事項を紹介していきますので「これから事業を始めてみようかな」とお考えの方は参考にしていただければと思います。
立ち上げに必要な手続と作業量が違う
事業の立ち上げ段階から大きな差があります。
個人事業主となるのは非常に簡単で、費用もかける必要がありません。
税務署に「開業届」を提出すれば最低限の手続は終了です。開業届の作成も難しいことはありません。税務署で専用の用紙を受け取り、必要事項を記入していくだけです。ネット上でも内容を確認することができ、氏名や住所などの基本事項に加え、事業のことなどを簡単に記載していけばよいのです。
開業手続そのものではありませんが、開業届を提出する際に「青色申告承認申請書」も併せて提出しておくと良いでしょう。こちらは必須の作業ではなく、所得税の申告を青色申告で行う場合にのみ必要な手続です。事務作業の負担は増えますが、青色申告を行うことで税負担の軽減が可能になります。
一方の法人は、届出だけで設立できるものではありません。
例えば株式会社の場合、まず起業者である発起人が定款を作成し、資本金の基となる出資金を納め、その後設立登記を行わなければなりません。会社法に則り適法に設立手続を進めないといけません。会社の憲法として機能する定款も法令に背くことなく一つひとつの条項を考えていきます。
さらに、設立する会社の種類や資本金の大きさにもよりますが、通常は30万円程度の費用がかかります。
社会的な信用力が違う
他社、あるいは個人と取引を交わすことで事業は展開していくことができます。誰も契約をしてくれない、誰も商品を購入してくれずサービスも利用してくれない、といった状況では事業を継続することはできません。
取引を成立させるためには、優れた商品・サービスであることも重要ですし、広告や営業活動なども重要です。しかしそれらすべての基礎にあるのが「信用」です。信用があるからこそ取引を成立させることができるのです。
逆に信用がない場合、商品やサービスの優れたポイントをどれだけアピールしても相手方には不安が残り、成約に至るのは困難でしょう。
信用力は、実績などさまざまな事柄が絡み合って評価されるものですし、人によって感じ方も異なります。そのため数値などで客観的に示せるものではありません。
ただ、法人の方が信用力の面では勝っている傾向にあるといえます。前項で説明した通り立ち上げのハードルが法人の方が高く、その分事業主体としてしっかりした印象を与えることができるからです。また、登記内容からその存在を確認できることも安心材料となります。
特に取引金額が大きな場合は信用力が成否に大きく影響してくることでしょう。
事業の規模が違う
基本的に法人は組織を構成して活動、個人事業主は個人で活動します。
法人であっても代表者1人というケースはありますし、個人事業主でも従業員を雇うことは可能です。
ただ、株式会社などはそもそも組織として立ち上げられることが想定されており、法令上も組織として活動するための仕組みが出来上がっています。これに対して個人事業主は1人での活動が基本であり、雇用はできるものの大きな組織とするのには向いていません。
そして事業の規模を大きくしていくためには組織として取り組むことが重要であり、組織力という面では法人の方が優れています。
また、信用力の差などから資金も法人の方が調達しやすく、法人だとその大きな資金を使ってさらに事業を拡大していくことができます。
税負担の大きさが違う
法人のする活動から生じる利益(所得)に対しては「法人税」が、個人事業主のする活動から生じる利益に対しては「所得税」が課税されます。
厳密に税負担の違いを比べるには複雑な計算が必要ですが、傾向としては次のような違いがあるといえます。
- 個人事業主:利益が小さい場合に有利
- 法人:利益が大きい場合に有利
所得税は累進課税制度を採用しており、課税所得が大きくなるほど適用される税率も大きくなり税負担がどんどんと増していく仕組みになっています。これに対して法人税は一定です。
そのため同じ利益を出したときでも、その金額が小さいときは所得税が課税される個人事業主の方が税負担は小さくなり、金額が大きなときは法人税が課税される法人の方が税負担は小さくなるのです。
意思決定の柔軟性とスピードが違う
何か作業をするとき、自分1人だと思いつくまま即実行に移すことができます。しかしチームで作業に取り組んでいるときは他人の意見も聞き、協議を行った上で意思決定を行うことになります。
個人事業主と法人にも同じ考え方が適用できます。
個人事業主となった方は自分の意思に従い自由に行動することができます。新たなビジネスを始める、事業を撤退する、経費の使い方や予算の組み方などもすべて自分の意思で決定することが可能です。
しかし法人を設立してチームを組んでいるとき、例えば株式会社の場合は構成員である株主の意見を反映して意思決定しなければなりません。取締役の意思に基づいて行動できることもありますが、重要な事項については株主総会を開催し、そこで株主の賛成を得るなど多くの手順を踏まないといけません。
株式会社でもごく小規模で実質「経営陣=株主」の関係にあるとき、意思決定のスピードは速まりますが、それでも取締役の1人が勝手に決断することはできずチーム内での意見を聞く必要があります。
そこで意思決定の柔軟性やスピードという面では個人事業主の方が優れているといえます。
ただし判断の質、ミスなどを考えると必ずしも個人事業主の方が良いともいえません。協議を行うことで時間はかかるものの、より良い判断が下せることもあるからです。
法人と比べた個人事業主のメリット・デメリット
法人と比較したときの、個人事業主だからこそ得られるメリットについて簡単にまとめます。
個人事業主のメリット | |
---|---|
開業手続が簡単 | 個人事業は税務署に開業届を提出するだけですぐに開業できる。 法人の場合は多数の手続が必要で数週間、1ヶ月超かかることもある。 |
利益が小さなうちは税負担も軽い | 利益が小さなうちは所得税の課税される個人事業主の方が納税額も小さくなる。ただし利益が大きくなると税負担が重くなってくるため、途中で法人化する例も多い。 |
税務申告が簡単 | 個人事業主の方が申告書の作成手間が小さく、会計ソフトを使えば比較的簡単に処理が済ませられる。経理など日々の事務作業にかかる手間についても同様に個人事業主の方が小さい。 法人だとより高度な知識が必要で、税理士に作業依頼を出すことが多い。 |
意思決定が迅速 | 個人事業主はすべて自分自身で決断できる。 法人の場合は役員間での協議、社員の賛成を得るなど、意思決定を下すのに時間がかかる。 |
次に、法人と比べたときの個人事業主のデメリットをまとめます。
個人事業主のデメリット | |
---|---|
社会的な信用力が劣る | 個人事業主は法人のように登記を行わず簡単に設立できるが、対外的な信用を得るのがその分難しくなる。個人とではなく、法人との契約を望む企業と取引するのは難しい。 |
融資を受けにくい | 個人事業主は信用力に劣り、また個人のお金と事業用のお金の区別が法人のように明確ではないことも影響して、融資を受けるのが難しくなる。 融資による資金調達が難しくなることで事業スピードや規模にも影響してくる。 |
チームを組むのが難しい | 法人のようにチームとして動くための仕組みが整っておらず、組織化が難しい。優秀な人材の獲得も難しい。 |
利益が大きいと税負担も重くなる | 利益が増えると税率が法人税より大きくなる。また、個人事業税も課せられるようになり、全体としての税負担が重くなる。 |
個人事業主と法人にはこのような違いがあります。やろうとしている事業の内容、規模、必要な人員、資金調達の必要性、事務作業の負担、税負担など様々な事情を勘案して、どちらが適しているかを評価することが大事です。
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資格者紹介
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父親が会社経営をしていて、子どもの頃から将来は自分で起業し、自分の思うような人生を自分で切り拓いて生きていきたい、と考えていました。
父親の背中をずっと見てきましたので、経営者の思いや悩み、苦労などにも傍で触れることができました。
そして大学時代に出会った税理士という資格は、中小企業の最も身近なパートナーであることに非常に魅力を感じ、税理士を目指そうと決意しました。
大学卒業後、仕事をしながらの受験生活は長丁場となりましたが、無事に税理士試験に合格。
実際に自分が税理士として仕事をしていて感じることは、税理士の仕事はとてもやり甲斐があり、責任も重大であるということです。
ただし、税理士の使命は「正しい経理処理や税金計算をして、間違いのない申告書を作る」だけではありません。
専門家としての事務的なサービスにとどまらず、経営者が誰にも言えないような悩みを抱えた時に、真っ先に弊所のことを思い出して頂き、気兼ねなくご相談できるように心掛けています。
そして、経営者の思いに本気で応え、共に問題解決をしていきます。
そのため、経営者とのコミュニケーションを積み重ねにより、本物の信頼関係を構築することは重要です。
さらに「スピード対応」を常に心掛け、経営者が事業に専念できるよう、万全のサポートをさせて頂きます。
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- 所属団体
- 東京税理士会
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- 著書
- あさ出版「中小企業の資金調達方法がわかる本」(共著)
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- 経歴
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大学を卒業後、3年間の受験専念期間を経て、一般企業に営業職として入社。
その後、会計事務所に入所し、キャリアを積む。
2011年、税理士試験合格。翌2012年、税理士登録。
「より主体的に、責任を持って業務に取り組んでいきたい」と考え、2013年独立。
森下税理士事務所を開設する。
事務所概要
Office Overview