年末調整の計算方法について ~5つのステップに分けて手順を解説~
年末調整は、事前に給与から差し引いた源泉徴収税と、最終的に納付すべき所得税との差額を追加徴収または還付することでその差額を調整する手続きを指します。具体的な計算手順は5つに分けることができますので、当記事で各ステップを流れに沿って説明していきます。
手順1:給与所得の算出
最初に、「給与所得額」を算出します。
給与所得額 = 給与総額-給与所得控除額
※給与所得額の求め方
1年間で支払った給与や賞与の合計額「給与総額」から「給与所得控除額」を差し引くことで「給与所得額」が算出できます。
このときの「給与所得控除額」については給与総額に応じて定められており、給与総額が660万円未満の場合は、「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に沿って算出していきます。
その表の一部を抜粋したものが下表です。
給与等の金額 | 給与所得控除後の給与等の金額 | |
---|---|---|
以上 | 未満 | |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
4,996,000円 | 5,000,000円 | 3,556,800円 |
5,000,000円 | 5,040,000円 | 3,560,000円 |
5,040,000円 | 5,080,000円 | 3,563,200円 |
5,080,000円 | 5,012,000円 | 3,566,400円 |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
例えば給与総額が5,000,000円の場合、5,000,000円以上5,040,000円未満に該当するため、給与所得控除後の給与等の金額は3,560,000円です。
給与総額がそれ以上の場合は、国税庁が公開している給与所得控除額の表を参考に算出していきます。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円 まで | 550,000円 |
1,625,001円 から 1,800,000円 まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円 から 3,600,000円 まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円 から 6,600,000円 まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円 から 8,500,000円 まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円 以上 | 1,950,000円(上限) |
手順2:課税給与所得額の算出
次に、「課税給与所得額」を算出します。
課税給与所得額 = 給与所得額-所得控除額
※課税給与所得額の求め方
「課税給与所得額」は、「給与所得額」から「所得控除額」を差し引くことで算出できます。
※所得控除:所得から一定の金額を差し引く制度に基づき、それぞれの事情に合わせて控除額を差し引くことで、事情に応じて税負担を軽減させることができる。
前項で説明した「給与所得控除」は給与の金額に応じて控除額が決められていますが、一方の「所得控除」には従業員本人または従業員の家族の個人的な事情によって適用されるという違いがあります。
※個人的な事情とは例えば、配偶者の収入が一定の金額以下の場合(「配偶者控除」または「配偶者特別控除」の適用)や、特定の損害保険のうち地震による損害の部分についての保険料を支払った場合(「地震保険料控除」の適用)など。
<所得控除の例>
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- ひとり親控除
- 寡婦控除
- 勤労学生控除
- 障害者控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
これら各種控除を反映させるためには、従業員から回収した書類をもとに確認・計算を行う必要があります。具体的には、以下の書類を従業員に提出してもらう必要があります。
<年末調整において回収が必要な書類>
- 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
手順3:所得税額の算出
次に、「所得税額」を算出します。
所得税額 = 課税給与所得額×所得税率-控除額
※所得税額の求め方
前項で算出した「課税給与所得額」に「所得税率」をかけて、さらにそこから「控除額」を差し引いて算出します。
このときの所得税率および控除額は、国税庁で公開されています。次の表に沿って計算を行いましょう。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
引用:e-Gov法令検索 国税庁 No.2260 所得税の税率
このように、所得税率は5%~45%の範囲内で、所得金額が上がるほど税率も上がっていく仕組みになっています。
例えば、課税所得金額が3,500,000円の場合、所得税率は20%、控除額427,500円に該当するため、「3,500,000円×20%-427,500円=272,500円」の計算となり、所得税額は272,500円であると導き出すことができます。
手順4:年調年税額の算出
続いて、前項で求めた所得税額に、東日本大震災復興のための「復興特別所得税」2.1%を加えることによって、年調年税額を算出します。
年調年税額 = 所得税額×102.1%
※年調年税額の求め方
復興特別所得税の税額は所得税額の2.1%と定められているため、所得税額に102.1%をかけることで、最終的に納税するべき年調年税額が算出できます。
※復興特別所得税とは、2013年から2037年までの期間に限り、通常の源泉所得税と併せて納税の必要があるもの。
手順5:過不足の清算
最後に、1年間で既に差し引いた源泉徴収税額と、確定した年調年税額を比べて、その差額の清算を行います。
納める年調年税額が源泉徴収税額よりも多い場合は、従業員から追加で徴収し、反対に納める年調年税額が源泉徴収税額よりも少ない場合は、還付を行います。
追加徴収の要因として、大幅な昇給や家族が扶養から外れたなどの事情が考えられます。
一方、還付となる要因として、扶養家族が増えたことや残業時間が減ったことなどが考えられます。
追加徴収の場合も、還付の場合も、基本的には年末調整をする12月の給与で清算されます。
以上が基本的な年末調整の計算方法です。個々の所得の状況や控除の内容によって計算結果は異なるため、具体的な金額や控除の詳細については税務署や専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
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資格者紹介
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父親が会社経営をしていて、子どもの頃から将来は自分で起業し、自分の思うような人生を自分で切り拓いて生きていきたい、と考えていました。
父親の背中をずっと見てきましたので、経営者の思いや悩み、苦労などにも傍で触れることができました。
そして大学時代に出会った税理士という資格は、中小企業の最も身近なパートナーであることに非常に魅力を感じ、税理士を目指そうと決意しました。
大学卒業後、仕事をしながらの受験生活は長丁場となりましたが、無事に税理士試験に合格。
実際に自分が税理士として仕事をしていて感じることは、税理士の仕事はとてもやり甲斐があり、責任も重大であるということです。
ただし、税理士の使命は「正しい経理処理や税金計算をして、間違いのない申告書を作る」だけではありません。
専門家としての事務的なサービスにとどまらず、経営者が誰にも言えないような悩みを抱えた時に、真っ先に弊所のことを思い出して頂き、気兼ねなくご相談できるように心掛けています。
そして、経営者の思いに本気で応え、共に問題解決をしていきます。
そのため、経営者とのコミュニケーションを積み重ねにより、本物の信頼関係を構築することは重要です。
さらに「スピード対応」を常に心掛け、経営者が事業に専念できるよう、万全のサポートをさせて頂きます。
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- 所属団体
- 東京税理士会
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- 著書
- あさ出版「中小企業の資金調達方法がわかる本」(共著)
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- 経歴
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大学を卒業後、3年間の受験専念期間を経て、一般企業に営業職として入社。
その後、会計事務所に入所し、キャリアを積む。
2011年、税理士試験合格。翌2012年、税理士登録。
「より主体的に、責任を持って業務に取り組んでいきたい」と考え、2013年独立。
森下税理士事務所を開設する。
事務所概要
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